又、会うぜ。きっと会う――夢と転生の一大物語絵巻。
自らの死を意識しつつ書かれた、三島最後の作品。全四巻。〔新解説〕小池真理子
ともに華族に生まれた松枝清顕と綾倉聡子。互いに惹かれ合うが、自尊心の強さから清顕が聡子を遠ざけると、聡子は皇族との婚約を受け入れてしまう。若い二人の前に、燃えるような禁忌の道が拓かれ、度重なる密会の果て、ついに恐れていた事態を招来する──。
三島が己れのすべてを賭し、典雅なる宿命世界を描き尽くしたライフワークたる『豊饒の海』第一巻。解説・佐伯彰一/小池真理子。
【本文冒頭より】
学校で日露戦役の話が出たとき、松枝清顕(まつがえきよあき)は、もっとも親しい友だちの本多繁邦(ほんだしげくに)に、そのときのことをよくおぼえているかときいてみたが、繁邦の記憶もあいまいで、提灯行列を見に門まで連れて出られたことを、かすかにおぼえているだけであった。あの戦争がおわった年、二人とも十一歳だったのであるから、もう少し鮮明におぼえていてもよさそうなものだ、と清顕は思った。したりげにそのころのことを話す級友は、大てい大人からの受売りで、自分のあるかなきかの記憶を彩っているにすぎなかった。
松枝一族では、清顕の叔父が二人、そのときに戦死している。……
三島由紀夫(1925-1970)
東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、54年『潮騒』(新潮社文学賞)、56年『金閣寺』(読売文学賞)、65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
more...
自らの死を意識しつつ書かれた、三島最後の作品。全四巻。〔新解説〕小池真理子
ともに華族に生まれた松枝清顕と綾倉聡子。互いに惹かれ合うが、自尊心の強さから清顕が聡子を遠ざけると、聡子は皇族との婚約を受け入れてしまう。若い二人の前に、燃えるような禁忌の道が拓かれ、度重なる密会の果て、ついに恐れていた事態を招来する──。
三島が己れのすべてを賭し、典雅なる宿命世界を描き尽くしたライフワークたる『豊饒の海』第一巻。解説・佐伯彰一/小池真理子。
【本文冒頭より】
学校で日露戦役の話が出たとき、松枝清顕(まつがえきよあき)は、もっとも親しい友だちの本多繁邦(ほんだしげくに)に、そのときのことをよくおぼえているかときいてみたが、繁邦の記憶もあいまいで、提灯行列を見に門まで連れて出られたことを、かすかにおぼえているだけであった。あの戦争がおわった年、二人とも十一歳だったのであるから、もう少し鮮明におぼえていてもよさそうなものだ、と清顕は思った。したりげにそのころのことを話す級友は、大てい大人からの受売りで、自分のあるかなきかの記憶を彩っているにすぎなかった。
松枝一族では、清顕の叔父が二人、そのときに戦死している。……
三島由紀夫(1925-1970)
東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、54年『潮騒』(新潮社文学賞)、56年『金閣寺』(読売文学賞)、65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。